最近のオリディアは、憂鬱な気分から抜け出せずにいた。
今も、錆びれたベランダから大量の洗濯物を干しながら深い溜息をついている(勿論、大量の洗濯物は憂鬱な気分にさせるけれども)。
オリディアにとって、兄弟がせっせと生産する大量の洗濯物は慣れた苦労に過ぎない。鼻歌でも歌うか、外を走り回る幼い兄弟たちに口煩く説教を飛ばしている内に終わってしまう。
そう。
オリディアにとっての憂鬱はまた別のもの。
それは・・・・・・つい数ヶ月前に大量のフィルムとともにやってきた、ヘンテコな日本人フォトグラファである。そして、しかも奴は「男」なのだ。
男は嫌いだ。
オリディアは、アーシザのような俺様男、ホランドのような無神経男、ウラーのようなウジウジ男、(そしてもはや彼女の中に存在すらしていないが、きっとロンローという男)を嫌っている。嫌悪している。利害の一致さえなければ、今すぐ張り倒し殴り倒し、罵詈雑言を吐き飛ばし(もっとも彼女の口から出るのは常に罵詈雑言であるが)、二度とこの視界に入れたくないくらい嫌いだ。
彼女の中で許せる男は、可愛い兄弟たちだけである。最も彼らは「男」というよりは「男の子」で、女の尻を追いかけるよりは、ホットケーキの匂いを追いかけるほうが好きなような年頃だけれども。それでも、14になる思春期に入った弟には最近、感じたくも無い嫌悪感を時々感じてしまうのだが。
とにかく!
とにかく、今の今までオリディアの中には「嫌いな男」しかいなかったのだ。
それが最近、「苦手な男」というのが新に現れたのだ。
それが、オリディアの憂鬱である。
産まれてから、いや、子宮に誕生した頃から、ずっと男嫌いできたオリディアにとって、これは大問題である。というか、何をどうすれば良いのか、彼をどのポジションで捉えればよいのか(いつの間にか彼女の中では「奴」ではなく「彼」に格上げされている)、全く皆目、検討もつかないのだ。その所為なのか、彼の前にいると何とも落ち着かなく、ソワソワして・・・・・・いや、もう既にイライラするほどなのだ。
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